ゴミ屋敷問題の背景にある、最も深刻な心理状態の一つが「セルフネグレクト(自己放任)」です。これは、自分自身の健康や安全、衛生状態に関心を持てなくなり、生活に必要な行為(食事、入浴、掃除、医療の受診など)を放棄してしまう状態を指します。そして、ゴミ屋敷は、このセルフネグレクトが目に見える形で現れた、極めて危険なサインなのです。セルフネグレクトは、単なる「怠け」や「無気力」とは全く異なります。その根底には、多くの場合、深刻な精神的・身体的な問題が潜んでいます。例えば、うつ病や統合失調症などの精神疾患、認知症の進行、あるいはアルコール依存症などが、判断力や意欲を著しく低下させ、セルフネグレクトを引き起こすことがあります。また、配偶者との死別や失業といった、強い喪失体験やストレスがきっかけとなることも少なくありません。特に、社会との繋がりが希薄な高齢者や、孤立した生活を送る人々が陥りやすいとされています。セルフネグレクトに陥った人は、自分自身の生活環境が悪化していることに対して、問題意識を持てなくなります。部屋がゴミで埋まっても、異臭がしても、それを「異常」だと感じることができず、改善しようという意欲も湧きません。食事も満足に取らず、入浴もしないため、栄養失調や脱水症状、感染症といった、生命に関わる深刻な健康問題を引き起こすリスクが非常に高まります。周囲から見れば、ゴミ屋敷は衛生問題や近隣トラブルとして映りますが、当事者にとっては、それは生きることを放棄した末の、悲しい姿なのです。したがって、セルフネグレクトが疑われるゴミ屋敷への対応は、単にゴミを片付けるだけでは、決して解決しません。それは、医療と福祉が連携し、本人の心身の治療や、生活再建のサポート、そして社会との再接続を支援していく、包括的で長期的なアプローチが不可欠となる、極めてデリケートな問題なのです。
セルフネグレクトとゴミ屋敷の深い関係